書籍「平均化訓練」が春秋社より出版されており、訓練の実習と理論について詳しく紹介されています。
以下、書籍から一部抜粋します。
◯平均化訓練とは
私たちは体を自分の意思によって動かしているように思っていますが、体の働きの多くは無意識的なものです。
呼吸しているのも、心臓やその他の臓器が動いているのも、無意識に行なっていますし、寝ている間も寝相で色々と動いていたり、目が乾かないように瞬きをしているのも、意思によるものではなく、自動的に働いている。
私たちのあらゆる体の運動は、実はこの無意識の働きが根底で支えています。
これは筋肉の働きにおいても同じことが言えます。
例えば、歩いていても、どういう筋肉をどのように使うかは、意識して行っていませんし、椅子から立ち上がる時にも、いちいち意識して筋肉に指令を出してはいません。
私たちが体を動かす時、筋肉は自動的に反応しています。
その筋肉の無意識的な反応、働き方に、斑があるのです。
体のある筋肉が他より強く緊張し、反対にある筋肉は緊張が起きにくい。
つまり働きすぎる筋肉と、ほとんど働かない筋肉があるということです。
これは、右利きだから左よりも右をたくさん動かしているとか、山に登ったから足が疲れる、ということではなく、あらゆる動作において、無意識に起こっている筋肉の反応を指しています。
たとえば、ある人は、動く時に首の筋肉が真っ先に強く緊張し、そして、どのように動いても、腰のある部分には力が入らない、というような、自分でも気づかないレベルで起きている根本的な運動の傾向なのです。
これがいつも同じよう繰り返されているので、無意識の体の癖と言ってもいいです。
この個人個人のパターン化された運動によって、いつも肩が凝るとか、周期的に腰が痛くなるというように疲れる場所が決まっていたり、同じ作業をしている人同士でも、疲れてくるところが違うということが起こってくるのです。
そのように、他よりもたくさん緊張が起こる部分には疲労が蓄積され、運動の中に動員されない筋肉は、錆びついて弱くなる。
そして、このことは私たちの心や思考にも深く関わってくるのです。
この働き過ぎている筋肉と、働いていない筋肉は互いに関係しています。
反応が遅く、働かないために弱くなっている筋肉を、早く反応する強い筋肉が補って働いているのです。
たとえば、片方の足を骨折してしばらくギプスをしていると、その足は動かせないので、筋肉が痩せて細くなり、もう片方の足は、折った方の足を補って余分に運動するので、発達して太くなる。
このことが、体の内部の細かいレベルで起きているようなものです。
骨が繋がって、ギプスを外したあとは、細くなった方の足を使って強くしていきながら、両足のバランスを取っていかなければならない。
それと同じで、働いていない筋肉に力を流していくことで、全体がバランスよく運動できるようになります。
ところが、働き過ぎている筋肉は、疲労や異常によって気づくことがあっても、働いていない筋肉はなかなか気づかない。
だから、骨が繋がってギプスが外れたのに、依然として弱い方の足を庇いながら運動しているような状態になっているのです。
もし、働いていない筋肉がどこにあるかを把握することができれば、そこに力を入れる運動を学習できます。
平均化訓練では、体操を通して、そういう無意識のうちに眠らせている筋肉に気づき、それが自ずから働くような運動を意識的に学習し、その運動がまた無意識化されるように訓練していくのです。
弱くなっていた筋肉が少しづつ強くなるにつれ、体本来の連動性が取り戻り、偏り運動は徐々に全身運動に転換されていきます。
平均化訓練の体操法は、大きく分けて、二つの方向性があります。
一つは、
背骨の全体を動かすようにして、眠らせている筋肉を見つける体操。
もう一つは、
平均化体操という、全身緊張を作り出す体操です。
順番に説明していきましょう……